2004年の3冊

id:ookaさんの掲示板で「昨年の3冊」という企画を毎年年頭にやっていたのですが、今年はSAND掲示板での発表でした。そろそろいいかなと思い、それの僕の分の転載です。
http://6725.teacup.com/jun_ooka/bbs

                                                                          • -

昨年は全然ちゃんと本を読んでいないので〈ホーム〉寄りの選択になってしまいました。今年は〈アウェイ〉を闘う読書をしたいものです。



DJカルチャー―ポップカルチャーの思想史
ウルフ・ポーシャルト著『DJカルチャー/ポップカルチャーの思想史』三元社 2004年
世界の重層的決定の一端に関わる広大なポップフィールド。その解読(=カルチュラルスタディーズ)は昨今の流行りですが、本書はドイツのクラバー院生によるDJ文化解説書。クラブ文化は現実の闘争様式では最も洗練され繁栄していると考えていたが、それをまとめた良い本が少なかった。本書は書き口は安っぽいが、その世界を案内するには良書だと言える。かの前衛文化では現実から脱し坑するスタイルの拾い物が多々あるもので、ずっと以前からここにはマルチチュード的身振りを散見出来るのだ。



日本とは何か  日本の歴史〈00〉
網野善彦著『「日本」とは何か』講談社「日本の歴史00」 2000年
昨年2月に亡くなった歴史家網野氏の一般向けベストセラー、網野史観が分かり易く書かれている。父の法要中に親父の蔵書から発見した物で、昨年の出版ではないが氏(と父)の追悼も込めて選書。例の「つくる会」の『国民の歴史』と合わせ鏡になった非-国民の歴史が丹念に拾われてゆく。網野氏の、進歩史観に寄らない地域の生活文化に普遍性を見出すスタンスは、動物化した社会に警告を鳴らす。そして我々の先祖の群衆としての生き方は、これからの民族主義が強まり国民国家が弱まるであろう世界に生きる我々に希望を与える。




『情況 別冊 特集 反派兵』情況出版2004年3月号
少なくとも70年安保闘争以降、最大の盛り上がりになった社会運動の現状の頂点は2003年夏から秋にかけてのイラク戦争反対ブッシュ来日反対行動だろう。そこでは日本の運動としては異例の早さで思考の新陳代謝が行われた。一方昨年は、自衛隊派兵ブッシュ再選ムーア空騒で疲労が目立っている。しかし、大事なのは勝つことではなく、9.11以後の世界を生きて行くための価値観の再インストールとその情況の認識である。不穏であればある程、普通の生活を保守しがたくなるはずである。この様なSANDとは違う直接行動からも〈人民〉から〈群衆〉へのパラダイムシフトを感じるのだがどうだろうか。




美術関係が入りませんでしたが、アートとか芸術とかが安っぽく感じてしまうのは世相でしょうかね。時代に拮抗出来る作品(とアートブック)に今年は出合いたいものです。